ハジケ。

体に栄養を、心に刺激を。

同期と休職と愚痴

入社半年の秋、同期が一人辞めた。

唯一の女子の同期は休職した。

 

そんなに悪い会社だっただろうか。新人が逃げ出したくなるほどの環境だっただろうか。

私個人としては、確かに体力的に大変な部分はあるけれど、先輩たちはとても良くしてくれているし体調が悪いときはカバーに入ってもらえる。休日なんかの労働条件はいいとは言えないけれど、悪くない職場という印象だっただけに、複雑な気持ちだ。

 

休職する前、その子からラインが届いた。

「私、もう限界かもしれない」

「毎朝涙が出て止まらない」

「こんなの、女がやる仕事じゃなかった」

 

とても覚えがよく、一番に独り立ちした子だったから、それを聞かされた時はショックだった。ああ、あの子でさえそう感じてしまうのか、という一種の諦観。

とりあえず、ため込んでいることを吐き出してもらえれば、何か変わるかもしれない。

そう思って一緒にご飯を食べに行く約束はそのまま実行にした。行かなきゃよかった。

 

久々にあったその子は、長かった髪をバッサリ切っていて、とても疲れ果てた顔をしていた。溌溂だった印象は鳴りを潜め、声はぼそぼそとか弱い。

ランチセットを頼んで、届くまで彼女の話をひたすら聞いた。

 

「もう無理」

「会社の名前の入った車を見ただけで吐き気がする」

「名前すら聞きたくない」

「もう仕事のことを考えたくない」

 

喉が渇いた。散々思い悩んだのだろう彼女の声は、負の感情が凝縮されているようで一つ一つが重たく、私はひたすら水を飲んで誤魔化した。

 

会社に相談した経緯や、その時の自分の状況なんかを聞いていると、ほとんど鬱状態

確かに働くような状態にないことはわかった。こうなった理由は自分でもわからない、と投げやりな口調だった。お客さんに会いたくない、声すら聴きたくない。少しでも元気になってもらうつもり出来たけれど、これは多分無理だろうなと私もどこかで匙を投げた。

 

やめたいと思っているのだから仕方がないのだけれど、彼女の愚痴はどんどん攻撃性を増した。

「この仕事を続けていても得るものがない」

「移動してオフィスワークになっても、ここでは働きたくない」

そしてまた、

「女がする仕事じゃなかった」

 

なんだか、私が今そこそこ楽しく仕事をしていることまで否定されたような気持ちになった。ここにいてはいけないんだろうか。ここは沈みゆく泥船なんだろうか。

 

時折お客さんに「かわいそうに」と言われることがある。女の子なのに体力仕事をして、と。本意ではなかったけれど、最終的には自分で就くと決めた仕事なのに。「かわいそう」?私は仕事をしているだけであって、誰かに哀れまれるようなことは何もない。自分の仕事を馬鹿にされているようで、ここにいるのは間違っているといわれているようで、「かわいそう」と言われるたびに何か膿をため込んでいた。

 

けれど、それは仕事を経験していない人から言われていただけマシだったんだとわかった。一通り経験した同期に同じようなことを言われると、本当にしんどくて食事中なんだか気持ち悪かった。同期の吐く毒で、私が心をやられてしまった。

 

でも、疲れた顔をする彼女の言い分もわからないでもないけれど、正直彼女は青い鳥を追っているようにしか見えなかった。

「オフィスワークはしたくない」

「祝日も休みたい」

「彼氏の姉は歯科助手をしているけど、私は人の口の中を見るなんて無理」

「求人も全然ない」

一体何がしたいんだろう。人の仕事に対して最初から否定するようなことを言って、何の仕事ならしたいっていうんだろう。

仕事の愚痴ばかり出てきて、環境のせいにしかしていない姿がなんだか悲しかった。確かに環境も大きい要因だったんだろうけど、こういう仕事だということは入社前から分かっていたはずだし、休日が少ないのも分かっていたこと。それに対して、ろくに想像もしないまま入社したんだろうな、という甘さも感じずにはいられない。

 

今は休職だけれど、彼女は退職するんだろうな。

昨日の様子を見てほとんど確信している。同じ仕事をする同性がいなくなってしまうことは寂しいけれど、これ以上の無理はしてほしくないし、私も彼女の愚痴で病んでしまいそうだ。

 

話を聞いた直後は彼女の負の感情に引っ張られそうになったけど、今は彼女と私の感情を分けて考えられるようになってきた。同じ女でも、人は人、私は私。

私自身が仕事に対してどう思うかはまた別の話ということ。

彼女の言い分もわからないでもないけれど、私自身がこの仕事を嫌になるまではとりあえずゆるゆると頑張ってみようかな、と思う。